2012年7月2日月曜日

胃がん撲滅プロジェクト6 ピロリ学会2012 その1 ABC検査の問題

出張から戻ってきました。ピロリ学会という、消化器関係の学会です。いろいろな知見が集積されてきたようで、胃がん撲滅に向かって大きな一歩が踏み出されそうな雰囲気です。

以前にも書かせていただきましたが、胃がん撲滅の重要な一歩はピロリ菌感染に対する認識の問題です。残念ながら大人になってからのピロリ菌の除菌治療は胃がんのリスクをゼロにすることは難しいようです。ただ、リスクを減らす働きがあることには違いありません。

ABC胃炎検査の問題

ピロリ菌感染と胃炎の状態(胃がんの発生の確率の高まる状態にあるかどうか)を調べる2種類の検査を有り無しで分け、その組み合わせ4種(A-D)で胃炎の状態を評価し胃がんに対するリスクを推定する検査法です。すでに検診に導入している自治体や健保組合も増えているようで、その大部分においては有用な検査と考えております。

ピロリ菌感染の確認や胃炎の状態の評価としてのペプシノーゲン検査というのが一筋縄で行かないところがあり、運用上の問題点がいくつかみられました。


まずA群ですが、これはピロリ菌陰性、ペプシノーゲン陰性の最もリスクの低い群で、一般的には内視鏡検査も必要ないだろうという群です。


内視鏡的に治療された胃腫瘍例で調べると、全体の10%程度のA群に相当する症例がみられたという報告です。内容をよく検討するとそのほとんどがピロリ菌の既感染例だったということでした。除菌例以外に既感染という集団がいるということを認識しないといけないということです。また、ピロリ菌未感染の胃がんはこのA群に相当する症例の10%程度だったということでした。


次にD群に関する報告です。D群は胃炎が進行した状態で、ピロリ菌が生存する環境がなくなった状態で、ピロリ菌陰性、ペプシノーゲン陽性の群で胃がんの発生するリスクが最も高い群とされています。
http://www.gastro-health-now.org/ABCExamWhat.htm
この群についてよく調べてみると、いろいろな病気の状態が混在した状態だったという報告です。一つは陰性と思っていたピロリ菌が実際は検査の偽陰性でピロリ菌による胃炎を起こしていたというのが全体の4割程度みられたようです。(正確にはC群に相当)また、この群の2割程度にA型胃炎という自己免疫性の特殊な胃炎が含まれ、10数パーセントがピロリ菌未感染例で、本来生存する環境がなくなったとされる自然消退例は最も少数だったという、ややショッキングなもので、D群の取り扱いは慎重を期するようにとの結論でした。個人的にはDと分かった時点で、専門医に紹介して調べてもらうというのが妥当かと思われました。


こういったことから、ABC検査についてはまだまだ詰めて行かないといけないところはあるようです。


ペプシノーゲン検査は保険診療の範囲では調べることができません。ピロリ菌の検査でさえ、いろいろな要件をクリアして初めて保険診療で調べることができます。


いずれも費用的には比較的安価な検査にはいるとおもいます。


ピロリ菌について理解を深めていただくための啓蒙活動としてABC検査があっても良いのではと考えました。

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くどいですが、ターゲットは胃がんではなくて、ピロリ菌です。胃がん撲滅はその結果です。







6 件のコメント:

  1. ピロリ菌を除菌しても、人によっては
    胃癌のリスクは避けられないんですね。

    色々な要件を満たさないと
    ピロリ菌の除菌ができないようですが
    どのような条件がありますか?

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  2. こんにちは。いつもありがとうございます。非常に重要なことをいっていただきました。ピロリ菌感染によって胃の粘膜に起こる腸上皮化生というある種の加齢現象のような変化の強いひとほどリスクが高いとされています。除菌されてもこの腸上皮化生は改善することはあっても、完全に元通りなることはないようです。

    保険診療で除菌を行う場合は胃十二指腸潰瘍、特発性血小板減少性紫斑病、胃マルトリンパ腫、早期胃癌内視鏡治療後と診断された方のみとなります。

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  3. う~ん、その疾患を診断された方だけが保険診療というのは、微妙ですね。

    特定健診のように、今後の疾患を防ぐために除菌治療があるのなら、
    矛盾してる気がします。

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  4. おっしゃる通りです。学会では、腸上皮化生の起こっていない若い年齢での除菌治療が重要であるという共通認識が出来上がりつつあります。感染予防、感染がわかったときの対応について本来議論されるべきなのですが、保険診療の制約で議論でいない現状があります。

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  5. 早くみなさんの、胃癌のリスクが減るようになればいいですね。

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  6. こんばんは。目標は学校の検診でピロリ菌検査を導入することです。ここで予防することによりかなりの数の胃がんが予防できるようです。

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